薬膳の書

* * * 第四十一弾 * * 「梅(うめ)」 * * *

中国より薬用として奈良時代以前に日本に伝わり、九州で原生化。中国原産とされているが、大分、宮崎、長崎、台湾などでも自生しているのが見つかり、アジア東部の温帯地域が原産地という説もある。     −バラ科−

アジアの一部地域で栽培されている特殊な果樹。日本では全国各地で栽培されており、品種も300種以上ある。日本の代表する生産地は、紀州和歌山の他に、群馬、長野、山梨、徳島、福島など。5月下旬から6月に大量に出回り、7月上旬には、旬が終わってしまう。

酸味が強いので生食せずに、梅干、梅酒、梅酢、ジャム、梅肉エキスなどに加工して利用する。果実酒用には、色づいてないものが向いており、買ってすぐに漬ける。梅干などには、大粒の「南高梅」という品種が向いている。

−効能・薬効−
酸味の主体は、クエン酸とリンゴ酸。クエン酸には胃腸の働きをよくし、食欲をすすめ、タンパク質の消化を助ける働きがある。悪玉腸内細菌の抑制や整腸作用に効果がある。また、疲労を回復させる回路を円滑にし、疲労回復、老化防止に役立つ。血液中に乳酸がたまらないようにし、血液の流れをよくする働きがあるので、肩こりや腰痛などの筋肉疲労にもよい。カルシウムと結合して骨を強化する効用があり、鉄の吸収を促進し、血行をよくする働きもある。ビタミン類も含んでおり、風邪・二日酔いにも効果がある。

中国では漢方として用いられ、漢方薬杏仁水の原料となっている。
「三毒を断ち、その日の難を逃れる朝夕1個食べれば医者いらず。」と言われ、日本の民間薬として梅エキスがあり、細菌性の下痢、腹痛に用いられてきた。強い抗菌性と整腸作用がある。また頭痛の時にコメカミに梅をはったり、乗り物酔い防止に口に含むなど、身近な民間薬の効能もある。

−品種−
■南高(なんこう)
種が小さく果肉が厚い。1粒25g前後。用途:梅肉エキス梅酒・梅干など
■豊後(ぶんご)
豊後系品種はアンズの雑種といわれる。1粒50g〜70gの大きめ。用途:梅酒
■白加賀(しろかが)
栽培量日本一。果肉が厚い1粒30g〜40g。用途:梅酒・梅干・梅肉エキス

■玉英(ぎょくえい)
玉ぞろいがよく、外観が美しい。果肉が厚い。1粒25g〜30g。用途:最高の梅酒品種

■甲州(こうしゅう)最小
粒ぞろいのよい小梅で、種は小さい。1粒5g前後。
用途:梅干
■竜峡(りゅうきょう)小梅
小さめの小梅。1粒3g〜5g。
用途:カリカリ漬・梅干

−梅雨と密接な関係−
未熟な梅の実には毒のある青酸化合物が含まれており、梅雨の頃にクエン酸が増えて酸っぱくなると、この青酸化合物が分解し毒がなくなる。「入梅前の梅を食べるな」といわれる生活の知恵は理にかなったものといえる。青梅を収穫する頃の長雨を梅雨という。梅の開花から約100日後、立春から135日頃が平均的な梅雨入りの時期。

−梅は咲いたか〜。。。桜はまだかいな?−

渡来した頃の梅は、観賞用とする方が多く、万葉集でも梅を詠んだ歌は100首を超える。
現代では、花といえば「桜」だが、万葉集から古今集の時代は、梅の花が代表であった。
梅の名所も各地にあり、福岡県の大宰府天満宮、茨城県の偕楽園などがある。偕楽園は藩主徳川斉昭が非常時に備えて梅干を作るため、梅の栽培を奨励したことに始まる。果実栽培が発展したのは江戸期で、明治時代に確立されていった。

−梅の紋−
古代の衣装や用具にも梅紋は盛んに使われていたが、家紋として使われるようになったのは天満宮の信仰から。学問の神様「菅原道真」を祭った天満宮は、梅を神紋として用いた。菅原氏の子孫も、天神様を信仰する氏子たちも梅紋を用いるようになったため、梅紋を家紋として使用するひとは多くなっていった。梅紋には、梅の花を図案化した梅花紋(ばいかもん/左図)と丸型の花弁の梅鉢紋(うめばちもん/右図)があり100種類以上を数える紋がある。加賀・前田家の「加賀梅鉢」はとてもよく知られている。

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